汝病めるもの 喧嘩した。 それはまあいい。 いつも通りだからだ。 だが、その後がおかしかった。 「はっ!つーかねーいい加減にしないとオレ、女になりますよ?」 そう、カカシが言い放ったのだ。 ・・・だから? カカシの台詞はおかしい。 カカシとイルカは喧嘩をしていて。 言い争った挙句に出てきたのがこの台詞。 ・・・やっぱりおかしい。 大暴投な台詞な台詞にやさしくしてやる気持ちはかけらもなく、イルカはいらいらっとした気分のまま冷たく言った。 「・・・・なればいいんじゃないんですか?」 別に止めないし。 困らないし。 どうでもいいし。 むしろなりたいなら女でも、犬でも、猫でも、なんにでもなって出て行ってしまえ、と今のイルカは思っている。 そんなイルカにカカシはしつこく念を押した。 「いいんですね? い い ん で す ね?」 そんなに力を込められても困る。 「や、どーぞお好きに」 だって本当にどうでもいいから。 むしろそのしつこさにいらっときて、もう誰でもいいからもってかないかな、この目の前の馬鹿、と顔に書いて、にっこり笑ってやった。 そうしたらカカシも負けず劣らず、なにか根深いものがこもった目つきでイルカを見て、うふふと笑ったのだ。 「じゃあ、好きにさせてもらいます。イルカ先生知ってますか。この国では男同士では結婚できないですが、男と女ならできるんですよ。」 そんなこと教えられなくても知っている。常識中の常識だ。 「そんなこと教えられなくても知ってます。」 馬鹿をみる目でお馬鹿に教えてあげたら、お馬鹿はなおもにこっと笑った。 「じゃ、オレ今から病院行って診断書貰ってきます。そんで女になってきます。」 そのにこっと笑いがむかついたので「女体化できんのになんで病院なんだよ、この馬鹿。」ともはや隠さずにズバッといったら。「病院行って診断書貰わないと戸籍訂正できないでしょー、おりこうさん。」と言い返された。 「戸籍訂正って何を訂正するんだよ。戸籍じゃなくて訂正するのはその中身が先だろ。」と言ったら、「最近の先生は物知らずを自慢するんだー、えらいねー、子供に何を教えてるのかなー。女の姿で病院行って戸籍訂正っつったらひとつしかないじゃない。戸籍を女に女に変えるんだよー。」とカカシはいった。 「女にって男じゃないか。」 「外性器が異性で生殖能力なければ、性別訂正が可能なんですうー。忍者だから外見はどうにでもなるしー。」 「うそ。」 「本当ですうー。」 カカシのいうことは嘘もあってそのすべてを信じることは難しい。 イルカは自分の信じていたものを信じたかった。でも、もしかして、という疑念がよぎった。 「・・・女になって、それで・・・?」 なんとなく感じるきな臭さにイルカが問うと、カカシは満面の笑みで答えた。 「決まってる。籍を入れてやる。そんで、イルカ先生の戸籍に妻として同籍してやる。他の女に乗り換えても痕跡は残るもんね。妻、はたけカカシの!あっはっはーざまあみろ!」 愕然。 ・・・それはまたいった何という種類の嫌がらせだろうか。 男同士だから入れないと言われていた戸籍までびっちりへばりついてくるだなんて。 と、いうか。戸籍が訂正できて、性別的に男として生まれたものが女になったら結婚できるって、いつかわったのだか知らないが、それってもう同性の婚姻とどこがどう違うのかわからない。だったら素直に同性婚認めろよ。潔く。 いやいやそれよりも、イルカの同意なしに婚姻届出してやるってそれも問題だ。 「そんなの同意がなければ無効だ無効!」 「いいもん!隙を見て何遍もしつこくやるから!」 「全部無効だ!つうか喧嘩の意趣返しに女になって同籍ってあんた馬鹿か!おかしいだろ、病気だ!」 大体さっきまでイルカのことなんて、いやー!きらーい!とそういう喧嘩をしていたのだ。二人は。 それがなんでこんなことに。 どうにも理解できない相手の思考に混乱したイルカに、カカシは無駄にいい笑顔を向ける。 「ああ、病気だとも!イルカ馬鹿だから、オレは!とりあえずむかついたし許可貰ったからいっちょやってくる!」 じゃいってくる!と出発するカカシを止めるのに、喧嘩になったのはまた別の話。 何事も勝てない相手。 それは常識が通じない相手であるとイルカはしみじみとかみ締める。 |